Girls in MoonGold-roid House・デビューE.P『テーゼ』徹底解説インタビュー!

喧騒が消えた街に、静かなる轟音を鳴らす20歳の青い衝動。2020年に現れたアンダーグラウンドバンド、「Girls in MoonGold-roid House」(ガールズ・イン・モンゴロイド・ハウス)。昨年12月3日にデビューE.Pとなる『テーゼ』を発表した彼らであるが、同E.PはOasis/Blur等を手掛けるAndy ‘Hippy’ Baldwinがマスタリングエンジニアを務めており、その轟音オルタナサウンドは破壊的な魅力に満ち溢れている。

デビューから尖りまくる彼らのサウンドもさることながら、各曲の歌詞には、Vo/Gt.奥山寅男の、深く、難解な思想がちりばめられている。今回のインタビューでは、それらの楽曲の込められたメッセージと、彼ら自身の音楽的な、あるいはそれにとどまらない人生のバックグラウンドに踏み込んでいく。

[Girls in MoonGold-roid House]
Vo/G.奥山寅男 
Dr.谷伶那

[speranza!編集長]
篠原一生


篠原:今回のインタビューに先立ち、E.Pに収録された楽曲は全て聴かせていただきました。端的に言って、非常に難解な印象を受けていて、「相当溜まっているな」とも思いました笑 まずは作品全体としてのコンセプトについて聞いてみたいんですが、ズバリなんですか?
奥山:作品のテーマとか、コンセプトとかについては主に僕の方で決めているんですが、一言でいうとコンセプトは「自分の評価と、他者から見た自分について」です。なので、作品全体を通して自分について表現していて、例えば、「君」という言葉が出てきたりもしますが、それが「自分」を意味していることもあります。自分を見てほしい、自分自身を認めて欲しい、という命題があり、「テーゼ」というアルバム名に繋がります。
篠原:既に哲学感が満載になってきていますが、ここはあえて深堀します。こういうことを考えるようになったきっかけとか、理由とかはあるの?
奥山:まず、背景として、僕個人がSNSやネットニュース記事などでその時々のタイムリーなネタに飛びついているような人たちに日々疑問を感じている、というのがあります。日々、ネット等のメディアを通じて、政治的なことを含めてたくさんの情報に接することができますが、そのような中でも結局見たい情報だけ見るような人が多く、一つ一つのことについて、良く考えずに意見を言っている人が多いことに憂鬱を感じています。その中で、自己肯定と自己否定の繰り返しの過程にこそ価値を見出すべきなのではないかということを本作品の中で歌っています。各曲の中でもう少し具体的に説明しますね。
篠原:まだ、理解できていない部分も多いですが、頑張ってついていこうと思います。よろしくお願いします。

―「青いだけの街」について
奥山:この曲のテーマは「過去現在未来が繋がっていることの再発見であること」です。AメロからBメロにかけては「過去の自分に比べて、今の自分は成長した。今の自分のほうがうまくやっていると思う。でも、未来の自分から見たら今の自分は過去の自分で、価値のないものに映るのかな。」というストーリーを割と具体的に綴っています。これは自分が東北を青春18きっぷで周ったときに感じたことなのですが、それまで近いところだけみて生活していたのが、遠くの日常と全く異なる景色を見て、さらにそれが街から街へと繋がっているというのを目の当たりにして感じたことでもあります。なので、サビやタイトルでも使われる「街」という概念は、時間と同じように異なる街々も連続体であることなどをイメージしています。全く異なる世界も自分の世界とつながっていることの再確認を意味しています。
篠原:確かに、自分も海外に行ったりすると、これが自分の住んでいる世界と同じ世界なのか、って思ったりしますね。また、同じ国でも観光地みたいな場所から郊外に車で移動したりすると、景色がどんどん変わっていって、あくまで街と街が連続しているんだな~って感じるんだよね。
奥山:また、サビで使われた「オルタナが君を殺した」というフレーズは、これまでと違う価値観によって、自分の既存の価値観が変わったという体験をモチーフとしています。変化を肯定的に描写しています。
篠原:そのときそのときで表層的に感じていることを正解とはしない、過去と現在、現在と未来で自分の価値は変わるし、それは同時に変化を肯定的に捉えるということも意味しているわけですね。

Girls in MoonGold-roid House 「青いだけの街」

―「Number dead end」について
奥山:この曲は、僕が初めて完成させた曲でもあって、2020年の2月か3月頃にできた曲です。E.Pの全体的なテーマを考えていない時期に作った曲なので、他の曲との関連性はある意味薄いですが、過去の自分へのコンプレックス、今の自分へのコンプレックスを歌っているという点では、「青いだけの街」に共通する点もあるかと思います。ちなみにタイトルの由来はその時ハマってた「ナンバデッドエンド」というマンガです。E.Pと関連性は全くないですが、このマンガは名作です。

篠原:僕が最初に聴いたMV曲ですね。音楽的には他の曲から外れているという印象は受けませんでしたね。必ずしも意識はなかったのかもしれませんが、結果的にE.Pにマッチしている気がしますね。

Girls in MoonGold-roid House 「Number dead end」

―「カテ」について
奥山: この曲は、一転して自分を肯定する文脈となっています。サビでは、昔の自分は卑しい矛盾していると貶めたり、一方で昔の自分の思想がいまだに今の自分にあってそこを曲げたくないと葛藤したり、自己評価という面で揺れ動く様子を歌っています。しかし、最後で「でもやっぱなんか幸せだなって」と言い放って、自己評価を投げ出します。ただし、ここでいう投げだすというのは、正確には矛盾していること、変化していく過程自体を肯定して、そこに、弁証論的な解決を匂わせたいと思っています。この曲はとにかく歌詞を詰め込んでいます。
篠原「弁証論的」とか、大学受験の現代文とかでしか出てこない言葉使いするね。。

Girls in MoonGold-roid House 「カテ」

―「shoka」について
奥山:この曲は、最初に述べた「テーゼ」のテーマをかなり具体的に色濃く歌詞に書いている曲だと思っています。なお、6曲の中で唯一自分のことを歌っていません。例えば、CPUの性能一つとっても、今はどんどん変わっていってて、数年前の何倍もの性能になっていたりして、人類の歴史の中で一番動いている時代だと思うんですが、そういった点を歌っています。
SNSでよく考えもせず意見を発信するような人たちに向けた皮肉を表したりもしています。「正義を娯楽で振りかざした先に血が流れていると知らなかった」という歌詞は、昨今のネット炎上や誹謗中傷問題とかをモチーフとしています。
篠原:確かに、過去、未来、流されているだけの薄っぺらい人間、全部に疑問を投げかける内容になっているね。変化していることを感じ取れない人間に対して、強いメッセージを発していることが伝わってきます。

―「爪切り」について
奥山:この曲のストーリーは具体的で、歌詞のままです。「カテ」とは対照的に昔の自分を肯定して、今の自分を嘆いているのですが、カテの解決と同様、最後には矛盾を肯定する方向に向かいます。ただこちらは弁証論的というより、がむしゃらに熱いストレートなロックな解決を意識しています。

―「ノスタルジア」について
奥山:これまでの5曲で自分を時間的にとらえるということを歌ってきた上で、その連続体としてとらえた自分の中で変わるものと変わらないものを見分けたい、そんな感じのテーマです。この曲だけは、明確にストーリーがあって、長い間仲たがいしていた昔の親友との再会を描いています。「テーゼ」唯一の青春っぽい歌です。

Girls in MoonGold-roid House 「ノスタルジア」

篠原:各曲の説明、ありがとうございました。理解できたかは分からないですが、全体を通して一つのテーマを歌っているという点は理解できた気がします。今度は歌詞を離れて、音楽の方に話を移しますが、アーティストとか、楽曲的に影響を受けたものってある?
奥山:各曲の音については伶那の影響が大きいと思います。実は伶那自身楽器を始めたのが大学に入ってから、というのに加えて、まともに音楽を聴き始めたのも大学からだったりするんですが、かなりたくさんの音楽を聴いているんですよね。
:バンドでの曲を作るにあたって最も影響を受けているのは、Sonic Youth、Pavement、At The Drive-In、Nirvana、Rage Against the Machine、Red Hot Chili Peppers、Radiohead、Sunny Day Real Estate、Braid、The Promise Ring、THE APPLESEED CASTとかですね。
篠原:ちょっと待って、今、「At The Drive-In」って言った? 俺、それ超好きなんだけど、初めて好きって言ってる人見つけた笑
:マジですか笑 でも俺もAt The Drive-Inめっちゃ好きなんで、そこは負けないです。
篠原:いや、俺も負けない、俺、At The Drive-Inのライブ観るためだけに2016年サマソニのプラチナチケット買ってるからね。
:それは僕が音楽聴き始める前ですね笑 普通にめっちゃ羨ましいです。自分的にはそのあたりの音楽がエモ的な音楽性に繋がっていると思っています。

Sonic Youth「Dirty Boots」

At the Drive-in「Arcarsenal」

Rage Against The Machine「Guerrilla Radio」

篠原:でも、大学入学から音楽聴き始めたってことは、まだ1、2年しか経っていないと思うんだけど、既にかなり渋い洋楽まで手を出してるんだね。そこら辺の音楽って、普通にテレビでやってたりするものじゃないし、年代も必ずしも最近ってわけじゃないよね。
:洋楽を聴いているのは、大学に入ってからのサークルの影響が強いと思います。うちのサークルは、「54-71」のBoboさんが在籍していたサークルでもあって、洋楽のコピーをしている人が多いんです。とかSlintとか、洋楽エモも多いです。他にはThe Strokes、Muse、sとか。

Ride「Going Blank Again」

The Strokes「Under Cover of Darkness」

Muse「Uprising」

Arctic Monkeys「Brianstorm」

篠原:ちなみにちょっと話それるけど、Radioheadはどのアルバム好き?
:あ~それはですね、僕の場合「Pablo Honey」とか「The Bends」ですね。
篠原:なるほど、俺は「Kid A」なんだよね笑
:いや~それも分かります。これ人によってめっちゃ分かれて、「OK Computer」「Kid A」とかが好きな人と、初期の方が好きって人、両方いるんですよね笑
篠原:分かってるね笑 本当にその通りで、俺は「Kid A」とか「Idioteque」とかが好き派笑 Rideが好きっていうのもちょっとビックリしたかも。俺、自分以外で好きって言ってる知り合いいないかも。
Ride「Going Blank Again」が特に好きですね。

Radiohead「The Bends」

Radiohead「Creep」

Radiohead「Kid A」

Radiohead「Idioteque」

篠原:俺、実は「Nowhere」以外聴いたこと無いんで、今度それも聴いてみます。次に、作曲はどういう感じでやっているの?
:いわゆる作曲は寅男がやっていて、コードとかも作ってもらいます。ただ、そこにどんな音を乗せるかは僕が考えるので、サウンドの大部分は僕の影響が大きいんだと思います。音を乗せるときには、3ピースの時にどういうサウンドが良いかとかも意識します。割とノイジーな音が良いと思っているので、そういう楽曲が多いですね。
篠原:ちなみに、寅男君はどんな音楽を聴いたりするの?
奥山:僕は最初からロックが好きだったっていうわけじゃなくて、放課後ティータイムとかアニソン、ボカロとか聴いてました。
篠原:それは今作ってる楽曲からするとだいぶ意外笑 ボカロはPでいうと誰のが好き?
奥山:好きなボカロPはsupercellryoとかkemuとか。あと好きなアーティストでロックっぽいのというとThe Beatlesくらいかもしれません。bachoとか時速36kmとかART-SCHOOLとかも好きです。
篠原:ART-SCHOOL、世代的には俺らくらいだけど、今の20歳前後の人も聴くのはちょっと意外かも。
:若い世代でも結構好きな人多いかもしれません。

bacho「萌芽」

時速36km「ハロー」

ART-SCHOOL「UNDER MY SKIN」

篠原:次に、これは特に寅男君の方に聴きたいんだけど、思想的な影響を受けているものってあったりするの? 何かこう、深く物事を考えるようになった理由とかがあれば。
奥山:家で新聞をたくさんとっていたので、新聞をよく読んでいるから、というのはあるかもしれませんね。朝日、日経、産経、読売とか、主要な全国紙は全部読んでます。
篠原:なるほど、それで哲学的なところとか、文章に強い感じがするんだね。ちなみに二人でバンドを組んだきっかけとかは? 必ずしも音楽の趣味が合って、ていう感じじゃなさそうだけど。
:最初、サークルで知り合ったんですが、当初から仲が良かったというわけではなかったですね。タイプも違かったので。あるときラーメンを一緒に食いに行って、話をしたときに、どれくらいオリジナルの曲を本気でやってみたいか、っていうモチベーションが一致したのが大きかったと思います。がっつり客呼んでできるくらいになりたい、ってお互いが思っていたところですかね。
奥山:バンドを始めたのはカラオケの延長くらいの感じでした。ただ、ロックを通じて自分の考えを発信している人とかを見つけて、オリジナルをやりたいって強く思うようになりました。
:音楽性が一致してバンドを始めたわけではない、というところが、逆にいい方向に出ている気がします。お互い持っていない部分を補えている感じです。特に僕は作詞とかをやれって言われてもできないと思いますね。
篠原:その流れで聴くけど、伶那君は寅男君のことどう思う? 作詞の話とか聞いて、コイツやべぇな、とか思ったりしない?
:普段は結構普通ですよ笑 歌詞は確かにあれですけど言いたいことを歌詞にするのとか、作ってくるコードとかメロディーとか含めて、自分にはできないんで、リスペクトしている感じかもしれないですね。
篠原:なるほど、やっぱ普段溜め込んでて、それが音楽で出てくるタイプなのかな笑 最後に、今後、どんな音楽を作っていきたいとかはありますか?
奥山:誰の目から見ても名曲、というのを作りたいですね。The Beatlesの「Abbey Road」みたいな。
篠原:今回のE.P、全然そういうキャッチーな方向性じゃないけど笑
奥山:自分としてはそもそも独創性のあるものを作りたいわけではないという感覚なんですが笑 ただ、既存のジャンルが良いということはなくて、みんなの一歩先を行くようなものを作りたいですね。


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Vo/G.奥山寅男 
Twitter:@toraoband
Instagram:okuyama_torao

Dr.谷伶那
Twitter:@zero_Natrium_
Instagram:rynrtn__9

リリース情報詳細


[リリース情報]
12月3日(木)Release Digital 1st EP『テーゼ』
収録曲
1.青いだけの街
2.Number dead end
3.カテ
4.shoka
5.爪切り
6.ノスタルジア

配信リンク:https://nex-tone.link/thesis


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